さんぺい》が、人夫を使つて取り賄《まかな》つてゐる。杉山は河内国《かはちのくに》衣摺村《きぬすりむら》の庄屋で、何か仔細《しさい》があつて所払《ところばらひ》になつたものださうである。手近な用を達《た》すのは、格之助の若党|大和国《やまとのくに》曾我村生《そがむらうまれ》の曾我|岩蔵《いはざう》、中間《ちゆうげん》木八《きはち》、吉助《きちすけ》である。女はうたと云ふ女中が一人、傍輩《はうばい》のりつがお部屋に附いて立《た》ち退《の》いた跡《あと》で、頻《しきり》に暇《いとま》を貰《もら》ひたがるのを、宥《なだ》め賺《すか》して引《ひ》き留《と》めてあるばかりで、格別物の用には立つてゐない。そこでけさ奥にゐるものは、隠居平八郎、当主格之助、賄方《まかなひかた》杉山、若党曾我、中間木八、吉助、女中うたの七人、昨夜の泊客八人、合計十五人で、其外には屋敷内の旧塾、新塾の学生、職人、人夫|抔《など》がゐたのである。
 瀬田|済之助《せいのすけ》はかう云ふ中へ駆け込んで来た。

   四、宇津木と岡田と

 新塾にゐる学生のうちに、三年前に来て寄宿し、翌年一旦立ち去つて、去年再び来た宇津木矩之允
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