9−93、176−4]《ざつたふ》とを常とする工場《こうぢやう》になつてゐたのである。
家がそんな摸様《もやう》になつてゐて、そこへ重立《おもだ》つた門人共の寄り合つて、夜《よ》の更《ふ》けるまで還らぬことが、此頃次第に度重《たびかさ》なつて来てゐる。昨夜は隠居と当主との妾《めかけ》の家元、摂津《せつつ》般若寺村《はんにやじむら》の庄屋橋本忠兵衛、物持《ものもち》で大塩家の生計を助けてゐる摂津|守口村《もりぐちむら》の百姓兼質屋白井孝右衛門、東組与力渡辺良左衛門、同組同心|庄司義左衛門《しやうじぎざゑもん》、同組同心の倅近藤|梶五郎《かぢごらう》、般若寺村の百姓|柏岡《かしはをか》源右衛門、同倅|伝七《でんしち》、河内《かはち》門真《もんしん》三番村の百姓|茨田郡次《いばらたぐんじ》の八人が酒を飲みながら話をしてゐて、折々《をり/\》いつもの人を圧伏《あつぷく》するやうな調子の、隠居の声が漏れた。平生最も隠居に親《したし》んでゐる此八人の門人は、とう/\屋敷に泊まつてしまつた。此頃は客があつてもなくても、勝手の為事《しごと》は、兼て塾の賄方《まかなひかた》をしてゐる杉山三平《すぎやま
前へ
次へ
全125ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング