領を師と仰いでゐるものではあるが、半年以上使つてゐるうちに、その師弟の関係は読書の上ばかりで、師の家とは疎遠にしてゐるのが分かつた。「あの先生は学問はえらいが、肝積持《かんしやくもち》で困ります」などと、四郎助が云つたこともある。「そんな男か」と跡部が聞くと、「矢部様の前でお話をしてゐるうちに激《げき》して来て、六寸もある金頭《かながしら》を頭からめり/\と咬《か》ん食べたさうでございます」と云つた。それに此三人は半年の間跡部の言ひ付けた用事を、人一倍|念入《ねんいり》にしてゐる。そこを見込んで跡部が呼び出したのである。
 さて捕方《とりかた》の事を言ひ付けると、三人共思ひも掛けぬ様子で、良《やゝ》久しく顔を見合せて考へた上で云つた。平山が訴《うつたへ》はいかにも実事《じつじ》とは信ぜられない。例の肝積持《かんしやくもち》の放言を真《ま》に受けたのではあるまいか。お受《うけ》はいたすが、余所《よそ》ながら様子を見て、いよ/\実正《じつしやう》と知れてから手を着けたいと、折り入つて申し出た。後に跡部の手紙で此事を聞いた堀よりは、三人の態度を目《ま》のあたり見た跡部は、一層切実に忌々《いま
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