ネ圓なる四層のたてものにして、「トラヱルチイノ」石もてこれを造る。層ごとに組かたを殊にす。「ドロス」、「イオン」、「コリントス」の柱の式皆備はりたり。基督生れてより七十餘年の後、ヱスパジアヌス[#「ヱスパジアヌス」に傍線]帝の時、この工事を起しつ。これに役せられたる猶太教徒の數一萬二千人とぞ聞えし。櫛形の迫持《せりもち》八十ありて、これをめぐれば千六百四十一歩。平地の周匝《めぐり》には八萬六千坐を設け、頂に二萬人を立たしむべかりきといふ。今はこゝにて基督教の祭儀を執行せしむ。バイロン[#「バイロン」に傍線]卿詩あり。
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この場《には》のあらん限は
内日《うちひ》刺《さ》す都もあらん
このにはのなからん時は
うちひさす都もあらじ
うちひさす都あらずば
あはれ/\この世間《よのなか》もあらじとぞおもふ
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頭の上にあたりて物音こそすれ。見あぐれば物の動くやうにこそおもはるれ。影の如き人ありて、椎《つち》を揮《ふる》ひ石をたゝむが如し。その人を見れば、色蒼ざめて黒き髯長く生ひたり。これ話に聞きし猶太教徒なるべし。積み疊ぬ
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