T線]が初てジユリエツト[#「ジユリエツト」に傍線]に來り見《まみ》えて共に舞ひし所にして、今は一の旅館となりぬ。われはロメオ[#「ロメオ」に傍線]の夜な/\通ひけん石の階《きざはし》を踐《ふ》みて、曾《かつ》て盛に聲樂を張りてヱロナ[#「ヱロナ」に二重傍線]の名流をつどへしことある大いなる舞臺に上りぬ。闊《ひろ》き窓の下鋪板《しもゆか》に達するまでに切り開かれたる、丹青《たんせい》目を眩《くらま》したりけん壁畫の今猶微かに遺《のこ》れるなど、昔の豪華の跡は思はるれど、壁の下には石灰の桶いくつともなく並べ据ゑられ、鋪板《ゆか》には芻秣《まぐさ》、藁《わら》などちりぼひ、片隅には見苦しき馬具と農具との積み累《かさ》ねられたるを見る。まことに榮枯盛衰のはかなきこと、夢まぼろしはものかは。さればこの假の世を、フラミニア[#「フラミニア」に傍線]の厭ひしも、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の去りぬるも、なかなかに慰む方ありとやいふべき。
月の末にミラノ[#「ミラノ」に二重傍線]に着きぬ。新に交を求めん心なければ、人の情《なさけ》の紹介幾通かありしを、一としてその宛名の家にとゞくること
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