A料《はか》らずも君にめぐりあひ候ひぬ。君はこよひの舞臺にて、むかし羅馬の通衢《ちまた》を驅《か》るに凱旋の車をもてせしアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]がいかに賤客に嘲《あざけ》られ、口笛吹きて叱責せられたるかを見そなはし給ひしなるべし。私は運命の蹙《せば》まりしと共に、胸狹くなりしを自ら覺え居候。扨《さて》見苦しき假住ひに御尋下され候時、我目を覆ひし面紗《ヱエル》の忽ち落つるが如く、君の初より眞心もて我を愛し給ひしことを悟り候ひぬ。汝こそは我を風塵中に逐ひ出しつれとは、君の御詞なりしかど、私のいかに君を慕ひまゐらせ、いかに君の方《かた》へ手をさし伸べ居たりしをば、君のしろしめさゞりしを奈何《いかに》かせん。私は再び君に見《まみ》ゆることを得て、君の温なる唇を我手背に受け候ひぬ。今や戸外に送りいだしまゐらせて、私は再び屋根裏の一室に獨坐し居り候。この室をば直ちに立退き申すべく、此ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]をも直ちに立去り申すべく候。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]の君よ。願はくは我が爲めに徒《いたづ》らに歎き悲み給ふな。私は世には棄てられ候へども、聖母《マドンナ》
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