c時の記憶とは、なつかしく美しきものながら、今はその美しさの彼《かの》メヅウザ[#「メヅウザ」に傍線]に逢ひて化石したるにはあらずやとおもはれたり。(メヅウザ[#「メヅウザ」に傍線]は希臘神話中の恐るべき處女神にして、之を視るものは忽ち石に化したりといふ。)煖き巽風《シロツコ》の吹くごとに、われはペスツム[#「ペスツム」に二重傍線]の温和なる空氣をおもひ出して意中にララ[#「ララ」に傍線]が姿を畫き、ララ[#「ララ」に傍線]によりて又その邂逅の處たる怪しき洞窟に想ひ及びぬ。われは彼《かの》物教へんとする賢き男女の人々の間に立ちて、上校の兒童の如くなるとき、心にはむかし賊寨《ぞくさい》にて博せし喝采と「サン、カルロ」座にて聞きつる讙呼《くわんこ》の聲とを思ひ、又人々の我を遇すること極めて冷なるが爲めに、身を室隅に躱《さ》けたるとき、心にはむかしサンタ[#「サンタ」に傍線]がもろ手さし伸べて、我を棄てゝ去らんよりは寧ろ我を殺せと叫びしことをおもひぬ。六とせは此の如くに過ぎ去りて、我齡は二十六になりぬ。
小尼公
フアビアニ[#「フアビアニ」に傍線]公子とフランチエスカ[#「フラン
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