驛tエルララ[#「フエルララ」に二重傍線]の朝廷よ。その名は今タツソオ[#「タツソオ」に傍線]によりて僅に存ずるにあらずや。當時の王者の宮殿は今瓦石の一|堆《たい》のみ、その詩人を拘禁せし牢舍《ひとや》は今巡拜者の靈場たりなどゝおもへり。此の如き心の卑むべきは、われ自ら知る。されど所謂教育は我をして此の如き心を生ぜしめざること能はず。われ若し彼教育を受けて、此心をだに生ぜざりせば、われは性命を保ちて今に到るに由なかりしなり。わが潔白なる心、敬愛の情は、一言の奬勵、一顧の恩惠を以て雨露となしゝに、人々は却りて毒水を灌《そゝ》ぎてこれを槁枯《かうこ》せしめしなり。
 今の我は最早昔の如き無邪氣の人ならず。さるを人々は猶無邪氣なるアントニオ[#「アントニオ」に傍線]と呼べり。今の我は斷えず書《ふみ》を讀み、自然と人間とを觀察し、又自ら我心を顧みて己の長短利病を審《つまびらか》にせんとせり。さるを人々は始終物學びせぬアントニオ[#「アントニオ」に傍線]と呼べり。この教育は六年の間續きたり、否、七年ともいふことを得べし。されど六とせ目の年の末には、早く多少の風波の我生涯の海の面に噪《さわ》ぎ立つ
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