ヌ《みなしご》たるを以てにあらずや。
 名よりして言はんか、我は貴族にあらず。されど心よりして觀んか、我|豈《あに》賤人ならんや。されば我は人に侮蔑せらるゝごとに、必ず深き苦痛を忍べり。いかなれば我は赤心を棒げて人々に依頼せしに、人々は我をして鹽の柱と化すること彼ロオト[#「ロオト」に傍線](亞伯拉罕《アブラハム》の甥《をひ》)が妻の如くならしめしぞ。是に於いてや、悖戻《ぼつれい》の情は一時我心上に起り來りて、自信自重の意識は緊縛をわが恆《つね》の心に加へ、此緊縛の中よりして、増上慢の鬼は昂然として頭を擡《もた》げ、我をして平生我に師たる俗客を脚底に見下さしめ、我耳に附きて語りて曰はく。汝の名は千載の後に傳へらるべし。彼の汝に師たるものゝ名は、これに反して全く忘らるべし。縱令《たとひ》忘られざらんも、その偶※[#二の字点、1−2−22]《たま/\》存ずるは汝が囹圄《れいご》の桎梏《しつこく》として存じ、汝が性命の杯中に落ちたる毒藥として存ずるならんといふ。われはタツソオ[#「タツソオ」に傍線]の上をおもへり。矜持《きようぢ》せるレオノオレ[#「レオノオレ」に傍線]よ。驕傲《けうがう》な
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