キるも、猶非凡なる材能たることを失はざるべし、空想感情靈應の諸性具備したりと見ゆればなりとあり。此評は惡しき方にはあらねど、當日の公衆の喝采に比ぶるときは、その冷かなること著《いちじる》しとおもはる。われは此新聞紙を疊みて行李の中に藏《をさ》めたり。そは他年わが拿破里の遭遇の悉く夢ならぬを證せん料《しろ》にもとてなり。嗚呼、われ拿破里を見たり、拿破里の市を彷徨《はうくわう》せり。わが得しところそも幾何《いくばく》ぞ、わが失ひしところはたそも幾何ぞ。知らず、フルヰア[#「フルヰア」に傍線]の預言は既に實現し盡せりや否や。
われ等は拿破里を出立《いでた》ちたり。葡萄栽ゑたる丘陵は見る/\烟雲の間に沒せり。一行は羅馬に向ひて行くこと四日なりき。わが行くところの道は、二月の前にフエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]、サンタ[#「サンタ」に傍線]の二人と與《とも》に行きし道なりき。モラ[#「モラ」に二重傍線]の旅亭に來て見れば、柑子の林は今花の眞盛なり。われは再び我《わが》祕言《ひめごと》をサンタ[#「サンタ」に傍線]に偸《ぬす》み聽かれし木蔭に立寄りたり。人の離合聚散の測り難きこと、また今更に
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