tは深く烟霧の裏《うち》に隱れて、われに送別の意を表せんともせざる如し。是日《このひ》海原はいと靜にして、又我をして洞窟と瞽女《ごぜ》との夢を想はしむ。嗚呼《あゝ》、此拿破里の市も、今よりは同じ夢中の物となり了《をは》るならん。
 房奴《カメリエリ》はけふの拿破里日報(ヂアリオ、ヂ ナポリ)を持ち來りぬ。披《ひら》きて見れば、我《わが》假名《けみやう》あり。さきの日の初舞臺の批評なりき。いかなる事を書けるにかと、心|忙《せは》しく讀みもて行くに、先づ空想の贍《ゆたか》にして、章句の美しかりしを稱《たゝ》へ、恐らくは是れパンジエツチイ[#「パンジエツチイ」に傍線]の流を酌《く》めるものにて、摸倣の稍※[#二の字点、1−2−22]甚しきを嫌ふと斷ぜり。パンジエツチイ[#「パンジエツチイ」に傍線]といふ人はわれ夢にだに見しことあらず。われは唯だ我天賦の情に本《もと》づきて歌ひしなり。想ふに彼批評家といふものは、おのれ常に摸擬の筆を用ゐるより、人の藝術も亦|然《しか》ならんと思へるにやあらん。末の方には例に依りて、奬勵の語を添へたり。いはく。此人終に名を成すべき望なきにあらず、今の見る所を以て
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