カ、上に十字架を立てたるが、燈《ともしび》をばその前に點せるなり。二人の小娘は衣《きぬ》を脱《はづ》して、白き汗衫《はだぎ》を鬆《ゆる》やかに身に纏《まと》ひ、卓の下に跪きて讚美歌を歌へり。姉なる新婦《にひよめ》も亦二人の間に坐せり。我目に映じたる此一幅の圖はラフアエロ[#「ラフアエロ」に傍線]の筆に成りたる聖母と二天使との圖と擇《えら》むことなかりき。新婦の漆黒なる瞳子《ひとみ》は上に向ひて、その波紋をなせる髮は白き肩に亂れ落ち、もろ手は曲線美しき胸の上に組み合されたり。
われは屏息《へいそく》してこれを窺《うかゞ》ひ居て、我脈搏の亢進するを覺えたり。既にして三人は立ちあがりぬ。新婦は二兒を延《ひ》きて梯《はしご》を上り、しばらくありて靜かに傍廂《かたびさし》の戸を閉ぢ、獨り梯を下り來りぬ。さて窓に近きところを往來《ゆきき》して、物取り片付けなどし、ふと何事をか思ひ出でしものゝ如く、箪笥の前に坐して、その抽箱《ひきだし》より紅色の手帳一つ取り出だしつ。打ち返し見てほゝ笑み、開き見んとするさまなりしが、忽ち又首打ち掉《ふ》りて、手快《てばや》く抽箱《ひきだし》の中に投じたり。そのさま
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