汾ル作の上に留めて、おのづから美を現ぜり。
 小《ちさ》き中庭を歩みて宿るべき部屋々々に登り着きぬ。我室の窓より見れば、烟波|渺茫《べうばう》として、遠きシチリア[#「シチリア」に二重傍線]のあたりまで只だ一目に見渡さる。地平線の際《きは》に、しろかね色したるものゝ點々數ふべきは舟なり。
 ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は我を遊歩に誘はんとて來ぬ。いかに詩人よ。共に麓のかたに降り行きて、かしこの風景の美のこゝに殊なりや否やを見んとおもはずや。少くも女性の美は麓のかたの優れたること疑ふべからず。こゝの隣房なる英吉利《イギリス》婦人の色蒼ざめて心冷なるは、我が堪ふること能はざる所なり。おん身も女子《をなご》を見ることをば嫌ひ給はぬならん。恕《ゆる》し給へ、こは我ながらおろかなる問なりき。女子を見ることを嫌ひ給はねばこそ、君はこゝらわたりを彷徨《さまよ》ひて、我は又この邂逅の奇縁を結ぶことを得つるなれ。斯く戲れつゝ、ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は我を促し立てゝ石徑を下り行けり。途《みち》すがら又いふやう。猶忘れ難きは彼の目しひたる娘の美しさなり。拿破里に歸りての後、カラブリア[
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