ソ名を成さんには遑《いとま》あらざるべし。われ。才の拙《つたな》く學の足らざるは、げにおん詞の如くなり。されどわが公衆に對せし時の成功をば、君の親しく視給はねば知らせ參らせんやうなし。只だ君の信ぜさせ給ふと覺しきジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]の君は彼夕劇場にありて、我技を賞し給ひきと申さば足りなん。夫人。おん身はジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]を證人とせんとやいふ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は好き紳士なれど、われは其藝術上の批評には重きを置かず。劇場に集ひし一夜の公衆に至りては、いよ/\信ずべからず。おん身若し彼夕もろひとに辱《はづかし》められんには、われ深く憾《うらみ》とすべし。その事なくして畢《をは》りしは、まことに自他の幸なり。おん身が場に上りしは唯だ一夜にして、假名《けみやう》をさへ用ゐぬれば、かゝる夢の如きよしなしごとの久しく人の記憶に殘らん憂はあらじ。三日の後には我等又拿破里に在り。そのあくる日には羅馬へ旅立すべし。羅馬に往きて、おん身の耐忍と勉勵とを見せよ。おん身に眞《まこと》の事を告ぐるは我のみぞとのたまひぬ。
古祠、瞽女《ごぜ》
ペスツ
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