ノ學理學に思を覃《ふか》むるを期せし時、渠は拿破里《ナポリ》の女優に懸想してうはの空なりしなり。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。そは多情多恨なる證《あかし》なるべし。女優とはいかなる美人なりしぞ。その名をば何とかいひし。夫人。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]とて人柄も技倆も共に優れし女なりき。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。(盃を擧げて)アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は我も迷ひし一人なり。そは好趣味ありと謂ふべし。さらば、即興詩人の君、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の健康を祝して一杯《ひとつき》を傾けてん。(我は苦痛を忍びて盞《さかづき》を※[#「石+並」、第3水準1−89−8]《うちあは》せたり。)夫人。そも一わたりの迷にあらず。議官《セナトオレ》の甥と鞘當《さやあて》して、敵手《あひて》には痍《きず》を負はせたれど、不思議にその場を遁《のが》れ得たり。かくてこたび「サン、カルロ」座には出でしなり。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]をば舊く知りたれども、その大膽なることかくまでならんとは、我等も思ひ掛けざりき。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍
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