ミわなゝくを覺えて、力なく亭内なる長椅の上に坐したり。花卉《くわき》の薫《かをり》、幽かなる樂聲、暗き燈火《ともしび》、軟《やはらか》なる長椅は我を夢の世界に誘《いざな》ひ去らんとす。現《げ》に夢の世界ならでは、この人に邂逅すべくもあらぬ心地ぞする。少焉《しばし》ありて前《さき》のアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]に似たる少女は此室に入り、將に進みて我が居る亭に入らんとす。われは心にいたく驚きて、身内《みうち》の血の湧き立つを覺えき。その時ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]は忽ち聲朗かに歌ひはじめたり。少女は聲をしるべに隣の亭に入りぬ。衣《きぬ》の戰《そよ》ぎと共に接吻の聲我耳を襲へり。此聲は我心を焦《こが》し爛《たゞら》かせり。嗚呼アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は我を去りて此輕薄男子に就《つ》きしなり。この男子アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を獲てより幾時をか經し。而るに其唇は早く既にこの淤泥《おでい》もて捏《こ》ね成したる妖姫の身に觸るゝなり。われは此室を馳《は》せ出で、此家を馳せ出でたり。我胸は怒と悲とのために裂けんとす。此夜は曉近うして纔《わづか》
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