黷ホ、羅馬は猶幽谷のみ、墓田のみ。夫人は手を拍《う》ち鳴して、拿破里々々々と呼べり。
 車はラルゴ、デル、カステルロ[#「ラルゴ、デル、カステルロ」に二重傍線]に曲り入りぬ。(原註。拿破里《ナポリ》大街《おほどほり》の一にして其末は海岸に達す。)同じ※[#「門<眞」、第3水準1−93−54]溢《てんいつ》、同じ喧囂《けんがう》は我等を迎へたり。劇場あり。軒燈籠懸け列ねて、彩色せる繪看板を掲げたり。輕技《かるわざ》の家あり。その群の一家族高き棚の上に立ちて客を招けり。婦《をみな》は叫び、夫は喇叭《らつぱ》吹き、子は背後より長き鞭を揮《ふる》ひて爺孃《やぢやう》を亂打し、その脚下には小き馬の後脚にて立ちて、前に開ける簿册を讀む眞似したるあり。一人あり。水夫の環坐せる中央に立ちて、兩臂《りやうひぢ》を振りて歌へり。是れ即興詩人なり。一翁あり。卷を開いて高く誦すれば、聽衆手を拍ちて賞讚す。是れ「オランドオ、フリオゾ」を讀めるなり。(譯者云。わが太平記よみの類《たぐひ》なるべし。讀む所はアリオストオ[#「アリオストオ」に傍線]の詩なり。)
 夫人は忽ちヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]と呼びぬ
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