驕B兩邊の高き家には、窓ごとに床張り出したるが、男女の群のその上に立ち現れたるさまは、こゝは今も謝肉祭《カルネワレ》の最中にやとおもはるゝ程なり。馬車あまた火山の坑《あな》より熔け出でし石を敷きたる街を馳《は》せ交《か》ひて、間※[#二の字点、1−2−22]馬のその石面の滑《なめらか》なるがために躓《つまづ》くを見る。小なる雙輪車あり。五六人これに乘りて、背後には襤褸《ぼろ》着たる小兒をさへ載せ、又この重荷の小づけには、網床めくものを結び付けたる中に半ば裸なる賤夫《ラツツアロオネ》のいと心安げにうまいしたるあり。挽《ひ》くものは唯だ一馬なるが、その足は驅歩《かけあし》なり。一軒の角屋敷の前には、焚火して、泅袴《およぎばかま》に扣鈕《ボタン》一つ掛けし中單《チヨキ》着たる男二人、對《むか》ひ居て骨牌《かるた》を弄べり。風琴、「オルガノ」の響喧しく、女子のこれに和して歌ふあり。兵士、希臘《ギリシア》人、土耳格《トルコ》人、あらゆる外國人《とつくにびと》の打ち雜《まじ》りて、且叫び且走る、その熱鬧《ねつたう》雜沓《ざつたふ》の状《さま》、げに南國中の南國は是なるべし。この嬉笑怒罵の天地に比ぶ
前へ
次へ
全674ページ中335ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング