烽オろきを見給へと指ざし示せり。その詞未だ畢《をは》らざるに、洞の前に横へたる束藁《たばねわら》は取り除《の》けられたり。山羊は二頭づゝの列をなして洞より出で、山の上に登りゆけり。殿《しんがり》には一人の童子あり。尖りたる帽を紐もて結び、褐色《かちいろ》の短き外套を纏ひ、足には汚れたる韈《くつした》はきて、鞋《わらぢ》を括《くゝ》り付けたり。童は洞の上なる巖頭に歩を停めて、我等の群を見下せり。
 忽ち車主《エツツリノ》の一聲の因業《マレデツトオ》を叫びて、我等に馳せ近づくを見き。手形の中、不明なるもの一枚ありとの事なり。われはその一枚の必ず我劵なるべきを思ひて、滿面に紅を潮《さ》したり。畫工は劵の惡しきにはあらず、吏のえ讀まぬなるべしと笑ひぬ。
 我等は車主の後につきて、彼塔の一つに上りゆき戸を排して一堂に入りて見るに、卓上に紙を伸べ、四五人の匍匐《はらば》ふ如くにその上に俯したるあり。この大官人中の大官人と覺しく、豪《えら》さうなる一人頭を擡《もた》げて、フレデリツク[#「フレデリツク」に傍線]とは誰ぞと糺問《きうもん》せり。畫工進み出でゝ、御免なされよ、それは小生《わたくし》の名に
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