I」に傍線]とアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]との上に想ひ及ぶとき、われは頬《ほ》の邊の沾《うるほ》ふを覺えき。涙にやありし、又窓の下なる石垣に中《あた》りし波の碎け散りて面に濺《そゝ》ぎたるにやありし。
 翌日は夜のまだ明けぬに、車に乘りてテルラチナ[#「テルラチナ」に二重傍線]を立ちぬ。領分境に至りて、手形改めあるべしとて、人々車を下りぬ。此の時始めて同行の人を熟視したるに、齡《よはひ》三十あまりと覺しく、髮の色|明《あか》く瞳子《ひとみ》青き男我目にとまれり。何處にてか見たりけん、心におぼえある顏なり。その詞を聞けば外國音《とつくにおん》なり。
 手形は多く外國文《とつくにおん》もて認《したゝ》めたるに、境守る兵士は故里《ふるさと》の語だによくは知らねば、檢閲は甚しく手間取りたり。瞳子青き男は帖《てふ》一つ取出でゝ、あたりの景色を寫せり。げに街道に据ゑたる關の、上に二三の尖《とが》れる塔を戴きたる、その側なる天然の洞穴、遠景たるべき山腹の村落、皆好畫料とぞ思はるゝ。
 わが背後《うしろ》よりさし覗きし時、畫工はわれを顧みて、あの大なる洞《ほら》の中なる山羊《やぎ》の群のお
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