A礎《いしずゑ》より簷端《のきば》迄、緑いろなる黴《かび》隙間なく生ひたり。人も家も、渾《す》べて腐朽の色をあらはして、日暖に草緑なる四邊《あたり》の景と相容れざるものゝ如し。わが病める心はこれを見て、つく/″\人生の頼みがたきを感じたり。
「アヱ、マリア」の鐘響くに先だつこと一時ばかりにして、澤地のはづれに出でぬ。山脈の黄なる巖《いはほ》は漸く迫り近づきて、南國の風光に富めるテルラチナ[#「テルラチナ」に二重傍線]の市は、忽ち我前に横りぬ[#「横りぬ」は底本では「花りぬ」]。三株の棕櫚樹《しゆろのき》高く道の傍に立てるが、その實は累々として葉の間に垂れたり。山腹の果圃《くわほ》は黄なる斑紋ある青氈《あをがも》に似たり。その斑紋は檸檬《リモネ》、柑子《かうじ》などの枝たわむ程みのりたるなり。一農家の前に熟し落ちたる檸檬を堆《うづたか》く積みたるを見るに、餘所にて栗など搖りおとして掃き寄するさまと殊なることなし。岩石のはざまよりは、青き迷迭香《まんねんらふ》(ロスマリヌス)、赤き紫羅欄花《あらせいとう》など生《お》ひ上《のぼ》りたるが、その巓《いたゞき》にはチウダレイクス[#「チウダレイ
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