|に散布せるによりて、いよ/\その美觀を添へ、人をして自然の大なるすら羅馬の蘇生祭には歩を讓りたるを感ぜしむ。鐘の響、樂の聲はこゝまでも聞えたり。
 われは車を下りて、些の稍事《せうじ》を買はゞやと酒店の中に入りぬ。店の前には狹き廊ありて、小龕《せうがん》に聖母を崇《いつ》きまつり、さゝやかなる燈を懸けたり。わが店を出でんとて彼龕の前に來ぬるとき、忽ちベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が吾前に立ち塞がりたるを見き。その面の色は、むかし「ジエスヰタ」派の學校のこゝろみの日に、桂冠を受け戴きしをりに殊ならず。眼は熱を病める如くかゞやけり。物狂ほしく力を籠《こ》めて我|臂《ひぢ》を握り、あやしく抑へ鎭《しづ》めたる聲して、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]、われは卑しき兇行者たらんを嫌へり、然らずば直ちに此劍もて汝が僞多き胸を刺すならん、汝は臆病ものなれば辭《いな》まむも知れねど、われは強ひて潔《いさぎよ》き決鬪を汝に求む、共に來れといふ。われは把《と》られたる臂を引き放さんとすまひつゝ、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]、物にや狂へると問ふに、友は焦燥《いらだ》つ聲を抑へて、
前へ 次へ
全674ページ中273ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング