Q2]《たま/\》貴婦人席より我に目禮するものあり。誰ぞと視ればアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]なりき。彼君は歸りぬ。彼君は此堂にあり。我胸はいたく騷げり。その席幸に遠からねば、我等は詞を交すことを得たり。姫は咋日歸りしかど、樂ははや果てし後にて、僅に「アヱ、マリア」の時此寺には來ぬとなり。
姫。此寺の光景はきのふ暗くて見しかた、けふのめでたきにも増してめでたかりき。聖ピエトロ[#「ピエトロ」に傍線]の墓の前なる一燈の外には何の光もなく、その光さへ最近き柱を照すに及ばざる程なるに、人々跪《ひざまづ》きて祷《いの》れば、われも亦跪きぬ。緘默《かんもく》の裡《うち》に無量の深祕あるをば、その時にこそ悟り侍りしかといふ。側にありし例の猶太《ユダヤ》婦人は、長き紗もて面を覆ひたれば、今までそれと知らざりしに、優しく我に會釋しつ。式は早や終りぬれば、姫はおのれを車に導くべき從者や來ると顧みたれど、その影だに見えず。若き人々の姫を認めて耳語《さゝや》き合ふもあれば、姫は早くこの堂を出でんとおもへる如し。われは車に導かんことを請《こ》ひしに、猶太婦人は直ちに手を我肘に懸け、姫は我と並びて行
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