ョこと一かたならず。吾心頭には稻妻の如く昔のおそろしかりしさま浮びたり。瞬《またゝ》くひまに街の兩側に避けたる人の黒山の如くなる間を、兩脇より血を流し、鬣《たてがみ》戰《そよ》ぎ、口より沫《あわ》出でたる馬は馳せ來たり。されど我前を過ぐるとき、いかにかしけむ銃もて撃《うた》れたる如く打ち倒れぬ。怪我せし人やあると、人々しばしは安き心あらざりしが、こたびは聖母やさしき手を信者の頭の上に擴げ給ひて、一人をだに傷け給はざりき。
危さの容易《たやす》く過ぎ去りしは、祭の興を損ぜずして、却《かへ》りて人の心を亂し、人の歡を助けたり。これよりは謝肉祭の大詰なる燭火の遊(モツコロ)始まらんとす。今まで列を成したりし馬車は漸く亂れて、街上の雜※[#「二点しんにょう+鰥のつくり」、第4水準2−89−93]《ざつたふ》は人聲の噪しさと共に加はり、空の暗うなりゆくを待ち得て、人々持たる燭に火を點せり。中には一束を握りて、こと/″\く燃せるもあり。徒《かち》なるも車なるも燭を把《と》りたるに、窓のうちに坐したる人さへ火持たぬはあらねば、この美しき夜は地にも星ある如くなり。家々より街の上へさし出せる火には、い
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