フ禮を受くるもの殆ど我一人なる如くおもはれき。我は我聲の一群を左右する力ありて、譬へば靈魂の肢體を役するが如くなるを覺えき。事果てて後家に歸りしが、身は唯だ夢中に起ちてさまよひありく、怪しき病ある人の如くにして、その夜枕に就きての夢には始終アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が我歌を喜べるさまをのみ見き。
翌日姫をおとづれぬ。ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]、昨夜の火伴《つれ》の二人三人は我に先だちて座にありき。姫のいはく。きのふ絃歌の中にて「テノオレ」の聲のいと善きを聞きつといふ。我面はこの詞と共に火の如くなりぬ。それこそアントニオ[#「アントニオ」に傍線]なれと告ぐるものあり。姫は直ちに我を引きて「ピアノ」の前に往き、倶《とも》に歌へと勸む。我は法廷に立てるが如き心地して、再三|辭《いな》みたるに、人々側より促して止まず、又ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]は聲を勵まして、さては汝切角の姫の聲をさへ我等に聞せざらんとするかと責めたり。姫に手を拉《ひ》かれたる我は、捕《とらへ》られし小鳥に殊ならず。縱《たと》ひ羽ばたきすとも、歌はでは叶はず。姫の歌はんといふは、わ
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