メぬ。戸は開けり。我はアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が前に立てり。
 衣は黒の絹なり。半紅半碧の紗《しや》は肩より胸に垂れたり。黒髮を束ねたる紐の飾は珍らしき古代の寶石なるべし。傍に、窓の方に寄りて坐りたるは、暗褐色の粗服したる媼《おうな》なり。彼君の目の色、顏の形は猶太少女といはんも理《ことわり》なきにあらずと思はる。我友がむかし猶太廓《ゲツトオ》にて見きといふ少女の事は、忽ち胸に浮びぬ。されど我心に問へば、この人その少女ならんとは思はれず。室の内には、尚一人の男居あはせたるが、わが入り來るを見て立ちあがれり。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]も亦起ちて笑みつゝ我を迎へたり。友はわざとらしき聲音《こわね》にて。これこそ我友なる大詩人に候へ。名をばアントニオ[#「アントニオ」に傍線]といひ、ボルゲエゼ[#「ボルゲエゼ」に傍線]の族《うから》の寵兒なり。主人の姫は我に向ひて。許し給へ。おん目にかゝらんことは、寔《まこと》に喜ばしき限なれど、かく強ひて迎へまつらんこと本意《ほい》なく、二たび三たび止めしに、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]の君聽かれねば是非なし。さき
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