}ドンナ》の恩澤に浴して、我に殊《こと》なる好き運命に逢ひ給ふなるべし。今はわれに唯だ一つの願あり。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]よ、能くそを※[#「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1−84−56]《かな》へ給はんかといふ。われ手に接吻して、いかなるおん望にもあれ、身にかなふ事ならばといふに、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]、さらばこよひの事をば夢とおぼし棄て給ひて、いまより後いついづくにて相見んとも、おん身と我とは識らぬ人となりなんこと、是れわが唯だ一つの願ぞ、さらば、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]、これより善き世界に生れ出でなば、また相見ることもあらんとて、我手を握りぬ。苦痛の重荷に押し据ゑられたる我は、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が足の下に伏しまろびしに、アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]徐《しづ》かに扶《たす》け起し、すかして戸外に伴ひ出でぬ。我は小兒の如くすかされて、小兒の如く泣きつゝ、又來んを許し給へ、許し給へと繰返しつ。戸は、さらばといふ最後の一こゑに鎖されて、われは空しく暗黒なる廊《わたどの》の中に立てり。街に出づれば、その暗黒は屋内《やぬち》に殊ならざりき。神よ。おん身の造り給ふところのものゝ中に、かゝる不幸もありけるよと、獨り泣きつゝ我は叫びぬ。此夜は家に返りて些の眠をだに得ずして止みぬ。
 翌日《あくるひ》はわれアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が爲めに百千《もゝち》の計畫を成就《じやうじゆ》し、百千の計畫を破壞して、終には身の甲斐《かひ》なさを歎くのみなりき。嗚呼、われは素《も》とカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野の棄兒なり。羅馬の貴人《あてびと》は我を霑《うるほ》す雨露に似て、實は我を縛《ばく》する繩索《じようさく》なりき。恃《たの》むところは單《た》だ一の技藝にして、若し意を決して、これによりて身を立てんとせば、成就の望なきにしもあらず。されども技藝の聲價、技藝の光榮は、縱令《よしや》其極處に詣《いた》らんも、昔のアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が境遇の上に出づべくもあらず。而るにそのアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が末路は奈何《いか》なりしぞ。假に彩虹の色をやどしつゝ飛泉の水の、末はポンチニ[#「ポンチニ」に二重傍線]の沼澤に沈み去るにも似たらずや。
 思慮はたゞ
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