うが面白い。手が下まで下りて来る途中で、左の乳房を押えるような運動をする。さて下りたかと思うと、その手が直ぐに又上がって、手の甲が上になって、鼻の下を右から左へ横に通り掛かって、途中で留まって、口を掩《おお》うような恰好になる。手をこう云う位置に置いて、いつでも何かしゃべり続けるのである。尤《もっと》も乳房を押えるような運動は、折々右の手ですることもある。その時は押えられるのが右の乳房である。
僕はお金が話したままをそっくりここに書こうと思う。頃日《このごろ》僕の書く物の総ては、神聖なる評論壇が、「上手な落語のようだ」と云う紋切形の一言で褒《ほ》めてくれることになっているが、若《も》し今度も同じマンション・オノレエルを頂戴したら、それをそっくりお金にお祝儀に遣れば好《い》いことになる。
* * *
話は川桝《かわます》と云う料理店での出来事である。但しこの料理店の名は遠慮して、わざと嘘の名を書いたのだから、そのお積りに願いたい。
そこで川桝には、この話のあった頃、女中が十四五人いた。それが二十畳敷の二階に、目刺《めざし》を並べたように寝ることになっ
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