はならない。有楽座で始て逢ってから、向うは目的に向って一直線に進んで来ている。自分は受身である。これから先きを自分がどうしようかというよりは、向うがどうしてくれるかという方が問題かも知れない。恋愛があるのないのと生利《なまぎき》な事を思ったが、向うこそ恋愛はないのであろう。そうして見れば、我が為めに恥ずべきこの交際を、向うがいつまで継続しようと思っているかが問題ではあるまいか。それは固《もと》より一時の事であるには違いない。しかし一時というのは比較的な詞である。
 こんな事を思っている処へ、婆あさんが朝飯を運んで来たので、純一は箸《はし》を取り上げた。婆あさんは給仕をしながら云った。
「昨晩は大相《たいそう》遅くまで勉強していらっしゃいましたね」
「ええ。友達の処へ本を借りに行って、つい話が長くなってしまって、遅く帰って来て、それから少し為事をしたもんですから」
 言いわけらしい返事をして、これがこの内へ来てからの、嘘《うそ》の衝き始めだと、ふいと思った。そして厭《いや》な心持がした。
 食事が済むと、婆あさんは火鉢に炭をついで置いて帰った。
 純一はゆうべ借りて来たラシイヌを出して、
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