一二枚開けて見たが、読む気になれなかった。そこでこんなクラッシックなものは、気分のもっと平穏な時に読むべきものだと、自分で自分に言いわけをした。それから二三日前に、神田の三才社《さんさいしゃ》で見附けて、買って帰ったHuysmans《ヒュイスマンス》の小説のあったのを出して、読みはじめた。
 小説家たる主人公と医者の客との対話が書いてある。話題は過ぎ去ったものとしての自然主義の得失である。次第次第に実世間に遠ざかって、しまいには殆ど縁の切れたようになった文芸を、ともかくも再び血のあり肉のあるものにしたのは、この主義の功績である。しかし煩瑣《はんさ》な、冗漫な文字《もんじ》で、平凡な卑猥《ひわい》な思想を写すに至ったこの主義の作者の末路を、飽くまで排斥する客の詞にも、確に一面の真理がある。
 自然主義の功績を称《とな》える処には、バルザックが挙げてある。フロオベルが挙げてある。ゴンクウルが挙げてある。最後にゾラが挙げてある。とにかく立派な系図である。
 純一は日本でのen miniature《アン ミニアチュウル》自然主義運動を回顧して、どんなに贔屓目《ひいきめ》に見ても、さ程|難有《あ
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