ないでも好さそうなものである。己はそういう経験を繰り返したくなかった。そこで断然初めからことわることにした。然《しか》るにそのことわるということの経験は甚だ乏しい。己だって国から送って貰うだけの金を何々に遣うという予算を立てているから、不用な金はない。しかしその予算を狂わせれば、貸されない事はない。かれの要求するだけの金は現に持っているのである。それを無いと云おうか。そんな嘘は衝《つ》きたくない。又嘘を衝いたって、それが嘘だということは、先方へはっきり知れている。それは不愉快である。
 つい国を立つすぐ前である。やはりこんな風に心中でとつ置いつした結果、「君これは返さなくても好《い》いが、僕はこれきり出さないよ」と云った事があった。そしてその友達とはそれきり絶交の姿になった。実につまらない潔癖であったのだ。嘘を衝きたくないからと云って、相手の面目を潰《つぶ》すには及ばないのである。それよりはまだ嘘を衝いた方が好《よ》いかも知れない。
 己は勇気を出して瀬戸にこう云った。「僕はこれまで悪い経験をしている。君と僕との間には金銭上の関係を生ぜさせたくない。どうぞその事だけは已《や》めてくれ給
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