て来る。そして一日の消遣策《しょうけんさく》を二つ三つ立てて己の採択に任せる。その中に例の如くune direction dominante《ユヌ ジレクション ドミナント》がある。それは磁石の針の如くに、かの共有している筈の秘密を指しているのである。己はいつもなるべくそれと方向を殊にしている策を認容するのであるが、こん度はためしにどれをも廃棄して、「きょうは僕は内で本を読むのだ」と云って見た。その結果は己の予期した通りであった。瀬戸は暫くもじもじしていたがとうとう金を貸せと云った。
 己にはかれの要求を満足させることは、さほどむずかしくはなかった。しかし己は中学時代に早く得ている経験を繰り返したくなかった。「君こないだのもまだ返さないで、甚だ済まないが」と云うのは尤《もっと》も無邪気なのである。「長々|難有《ありがと》う」と云って一旦出して置いて、改めてプラス幾らかの要求をするというのは古い手である。それから一番|振《ふる》っているのは、「もうこれだけで丁度になりますからどうぞ」というのであった。端《はし》たのないようにする物、纏《まと》めて置く物に事を闕《か》いて、借金を纏めて置か
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