はもう半夜を過ぎている。もう今日ではなくなっている。しかし変に気が澄んでいて、寐《ね》ようと思ったって、寐られそうにはない。
 その今日でなくなった今日には閲歴がある。それが人生の閲歴、生活の閲歴でなくてはならない筈《はず》である。それを書こうと思って久しく徒《いたずら》に過ぎ去る記念に、空虚な数字のみを留《とど》めた日記の、新しいペエジを開いたのである。
 しかし己の書いている事は、何を書いているのだか分からない。実は書くべき事が大いにある筈で、それが殆ど無いのである。やはり空虚な数字のみにして置いた方が増しかも知れないと思う位である。
 朝は平凡な朝であった。極《き》まって二三日置きに国から来る、お祖母《ば》あ様の手紙が来た。食物《しょくもつ》に気を附けろ、往来で電車や馬車や自動車に障《さわ》って怪我をするなというような事が書いてあった。食物や車の外には、危険物のあることを知らないのである。
 それから日曜だというので、瀬戸が遣って来た。ひどく知己らしい事を言う。何か己とあの男と秘密を共有していて、それを同心|戮力《りくりょく》して隠蔽《いんぺい》している筈だというような態度を取っ
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