ことがあります。次の幕はあの足音のした二階を見せることになっています」
「おや、あなたフランス学者」奥さんはこう云って、何か思うことあるらしく、にっこり笑った。
 丁度この時幕が開いたので、答うることを須《もち》いない問のような、奥さんの詞は、どういう感情に根ざして発したものか、純一には分からずにしまった。
 舞台では檻《おり》の狼《おおかみ》のボルクマンが、自分にピアノを弾いて聞せてくれる小娘の、小さい心の臓をそっと開けて見て、ここにも早く失意の人の、苦痛の萌芽《ほうが》が籠もっているのを見て、強いて自分の抑鬱不平の心を慰めようとしている。見物は只娘フリイダの、小鳥の囀《さえず》るような、可哀《かわゆ》らしい声を聞いて、浅草公園の菊細工のある処に這入って、紅雀の籠《かご》の前に足を留めた時のような心持になっている。
「まあ、可哀《かわい》いことね」と縹色のお嬢さんの※[#「※」は「口+耳」、第3水準1−14−94、59−6]《ささや》くのが聞えた。
 小鳥のようなフリイダが帰って、親鳥の失敗詩人が来る。それも帰る。そこへ昔命に懸けて愛した男を、冷酷なきょうだいに夫にせられて、不治の病
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