じをせずにはいられないのである。
 二十七日の晩に、電車で数寄屋橋《すきやばし》まで行って、有楽座に這入《はい》ると、パルケットの四列目あたりに案内せられた。見物はもうみんな揃《そろ》って、興行主の演説があった跡で、丁度これから第一幕が始まるという時であった。
 東京に始めて出来て、珍らしいものに言い囃《はや》されている、この西洋風の夜の劇場に這入って見ても、種々の本や画《え》で、劇場の事を見ている純一が為めには、別に目を駭《おどろ》かすこともない。
 純一の席の近処は、女客ばかりであった。左に二人並んでいるのは、まだどこかの学校にでも通っていそうな廂髪《ひさしがみ》の令嬢で、一人は縹色《はなだいろ》の袴《はかま》、一人は菫色《すみれいろ》の袴を穿《は》いている。右の方にはコオトを着たままで、その上に毛の厚いskunks《スカンクス》の襟巻をした奥さんがいる。この奥さんの左の椅子が明いていたのである。
 純一が座に着くと、何やら首を聚《あつ》めて話していた令嬢も、右手の奥さんも、一時に顔を振り向けて、純一の方を向いた。縹色のお嬢さんは赤い円顔で、菫色のは白い角張った顔である。その角張っ
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