黶sば》あさんが話して聞せた伝説であるからである。この伝説を書こうと云うことは、これまでにも度々企てた。形式も種々に考えて、韻文にしようとしたり、散文にしようとしたり、叙事的にFlaubert《フロオベル》の三つの物語の中の或る物のような体裁を学ぼうと思ったこともあり、Maeterlinck《マアテルリンク》の短い脚本を藍本《らんほん》にしようと思ったこともある。東京へ出る少し前にした、最後の試みは二三十枚書き掛けたままで、谷中にある革包《かばん》の底に這入っている。あれはその頃知らず識《し》らずの間に、所謂《いわゆる》自然派小説の影響を受けている最中であったので、初めに狙って書き出したArchaisme[#「i」は「¨」付き]《アルシャイスム》が、意味の上からも、詞《ことば》の上からも途中で邪魔になって来たのであった。こん度は現代語で、現代人の微細な観察を書いて、そして古い伝説の味《あじわい》を傷《きずつ》けないようにして見せようと、純一は工夫しているのである。
こんな事を思って、暫く前から勝手の方でがたがた物音のしているのを、気にも留めずにいると、天井の真中に手繰り上げてある電燈
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