サ未《かげんみ》三つの世界から、いろいろな客が音信《おとず》れて来る。国を立って東京へ出てから、まだ二箇月余りを閲《けみ》したばかりではある。しかし東京に出たら、こうしようと、国で思っていた事は、悉《ことごと》く泡沫《ほうまつ》の如くに消えて、積極的にはなんのし出来《でか》したわざも無い。自分だけの力で為し得ない事を、人にたよってしようと云うのは、おおかた空頼《そらだの》めになるものと見える。これに反して思い掛けなく接触した人から、種々な刺戟を受けて、蜜蜂《みつばち》がどの花からも、変った露を吸うように、内に何物かを蓄えた。その花から花へと飛び渡っている間、国にいた時とは違って、己は製作上の拙《つたな》い試みをせずにいた。これが却て己の為めには薬になっていはすまいか。今何か書いて見たら、書けるようになっているかも知れない。国にいた時、碁を打つ友達がいた。或る会の席でその男が、打たずにいる間に棋《ご》が上がると云う経験談をすると、教員の山村さんが、それは意識の閾《しきい》の下で、棋の稽古をしていたのだと云った事がある。今書いたら書けるかも知れない。そう思うとこの家《うち》で、どこかの静か
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