コないばかりでは無い。明かな目で見れば見る程、大胆で、heroique[#一つ目の「e」は「´」付き]《エロイック》な処が現れて来るかとさえ思われる。今から溯《さかのぼ》って考えて見れば、ゆうべは頭が鈍くなっていたので、左顧右眄《さこゆうへん》することが少く、種々な思慮に掣肘《せいちゅう》せられずに、却って早くあんな決心に到着したかとも推《すい》せられるのである。
 純一はきょうきっと実行しようと自ら誓った。そして心の中にも体の中にも、これに邪魔をしそうな或る物が動き出さないのを見て、最終の勝利を羸《か》ち得たように思った。しかしこれは一の感情が力強く浮き出せば、他の感情が暫く影を歛《おさ》めるのであった。後《のち》になってから、純一は幾度か似寄った誘惑に遭って、似寄った奮闘を繰り返して、生物学上の出来事が潮の差引のように往来するものだと云うことを、次第に切実に覚知して、太田|錦城《きんじょう》と云う漢学の先生が、「天の風雨の如し」と原始的な譬喩《ひゆ》を下したのを面白く思った。
 さてきょう実行すると極めて、心が落ち着くと共に、潜っている温泉宿の布団の中へ、追憶やら感想やら希望やら過
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