ヘ相違ない。画家の岡村と云えば、四条派の画《え》で名高い大家だということを、己も聞いている。どんな性質の人かは知らない。それを強いて知りたくもない。唯あの二人を並べて見たとき、なんだか夫婦のようだと思ったのが、慥かに己の感情を害した。そう思ったのは、決して僻目《ひがめ》ではない。知らぬ人の冷澹《れいたん》な目で見ても、同じように見えるに違いない。早い話が、あの店の上さんだって、若しあの二人に対して物を言うことになったら、旦那様奥様と云っただろう。己は何もあんな男を羨《うらや》みなんかしない。あの男の地位に身を置きたくはない。しかし癪《しゃく》に障る奴だ。こんな風に岡村を憎む念が起って、それと同時に坂井夫人に対しては暗黒な、しかも鋭い不平を感ずる。不義理な、約束に背いた女だとさえ云いたい。しかし夫人は己にどんな義理があるか。夫人の守らなくてはならない約束はどんな約束であるか。この問には答うべき詞が一つもないのである。どうしてもこの感じは嫉妬にまぎらわしいようである。
 そしてこの感じに寂しさが伴っている。厭な、厭な寂しさである。大村に別れた後《のち》に、東京で寂しいと思ったのなんぞは、ま
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