フ上さんが吊銭を手に載せて、板縁《いたえん》に膝《ひざ》を衝いて待っていたのである。純一はそれに気が附いて、小さい銀貨に大きい銅貨の交ったのを慌てて受け取って、※[#「※」は「魚+王のなかに口が四つ」、第3水準1−94−55、194−16]皮《わにがわ》の蝦蟇口《がまぐち》にしまって店を出た。
対岸に茂っている木々は、Carnaval《カルナヴァル》に仮装をして、脚ばかり出した群《むれ》のように、いつの間にか夕霧に包まれてしまって駅路《えきろ》の所々《ところどころ》にはぽつりぽつりと、水力電気の明りが附き始めた。
純一はぼんやりして宿屋の方へ歩いている。或る分析し難い不愉快と、忘れていたのを急に思い出したような寂しさとが、頭を一ぱいに填《うず》めている。そしてその不愉快が嫉妬《しっと》ではないと云うことを、純一の意識は証明しようとするが、それがなかなかむずかしい。なぜと云うに、あの湯本細工の店で邂逅《かいこう》した時、もし坂井夫人が一人であったなら、この不愉快はあるまいと思うからである。純一の考はざっとこうである。とにかくあの岡村という大男の存在が、己《おれ》を刺戟《しげき》したに
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