な調子で云った。
「あら。来ていらっしゃるのね」
純一は「ええ」と云った積りであったが、声はいかにも均衡を失った声で、しかも殆ど我耳にさえ聞えない位低かった。
夫人は足を留めて連れの男を顧みた。四十を越した、巌乗な、肩の廉張《かどば》った男である。器械刈にした頭の、筋太な、とげとげしい髪には、霜降りのように白い処が交っていて、顔だけつやつやして血色が好《い》い。夫人はその男にこう言った。
「小泉さんと云う、文学をなさる方でございます」それから純一の方に向いて云った。「この方は画家の岡村さんですの。やはり福住に泊っていらっしゃいます。あなたなぜ福住へいらっしゃらなかったの。わたくしがそう申したじゃありませんか」
「つい名前を忘れたもんですから、柏屋にしました」
「まあ忘れっぽくていらっしゃることね。晩にお遊びにいらっしゃいましな」言い棄てて、夫人が歩き出すと、それまで二王立《におうだち》に立って、巨人が小人島《こびとじま》の人間を見るように、純一を見ていた岡村画伯は、「晩に来給え」と、谺響《こだま》のように同じ事を言って、夫人の跡に続いた。
純一は暫く二人を見送っていた。その間店
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