ゥさば》らないものをと、楊枝入《ようじい》れやら、煙草箱やらを、二つ三つ選《え》り分けていた。
その時何か話して笑いながら、店の前を通り掛かる男女の浴客《よくかく》があった。その女の笑声《わらいごえ》が耳馴れたように聞えたので、店の上さんが吊銭《つりせん》の勘定をしている間、おもちゃの独楽《こま》を手に取って眺めていた純一が、ふと頭を挙げて声の方角を見ると、端《はし》なく坂井夫人と目を見合せた。
夫人は紺飛白《こんがすり》のお召縮緬《めしちりめん》の綿入れの上に、青磁色の鶉縮緬《うずらちりめん》に三つ紋を縫わせた羽織を襲《かさ》ねて、髪を銀杏返《いちょうがえ》しに結《い》って、真珠の根掛を掛け、黒鼈甲《くろべっこう》に蝶貝《ちょうかい》を入れた櫛《くし》を挿《さ》している。純一の目には唯しっとりとした、地味な、しかも媚《こび》のある姿が映ったのである。
夫人の朗かな笑声は忽ち絶えて、discret《ジスクレエ》な愛敬笑《あいきょうわらい》が目に湛《たた》えられた。夫人は根岸で別れてからの時間の隔たりにも、東京とこの土地との空間の隔たりにも頓着《とんじゃく》しないらしい、極めて無造
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