フ駅を貫いて進むうちに、悪夢に似た国府津の一夜を、純一の写象は繰り返して見て、同じ間に寝て、詞を交しながら、とうとう姿を見ずにしまった、不思議な女のあったのを、せめてもの記念だと思った。奉公に都へ出る、醜い女であったかも知れない。それはどうでも好《い》い。どんな女とも知らずに落ち合って、知らずに別れたのを面白く思ったのである。
 鉄道馬車を降りてから、純一はわざと坂井夫人のいる福住《ふくずみ》を避けて、この柏屋に泊った。国府津に懲りて拒絶せられはしないかと云う心配もあったが、余り歓迎しないだけで、小さい部屋を一つ貸してくれた。去就の自由がまだあるのなんのと、覚束ない分疏《いいわけ》をして見るものの、いかなる詭弁《きべん》的見解を以てしても、その自由の大《おおき》さが距離の反比例に加わるとは思われない。湯を浴びて来て、少し気分が直ったので、革包の中の本や雑誌を、あれかこれかと出しては見たが、どうも真面目に読み初めようと云う落着きを得られなかった。

     二十三

 福住へ行《ゆ》こうか、行くまいか。これは純一が自分で自分を弄《もてあそ》んでいる仮設の問題である。しかし意識の閾《しき
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