翌ヘこう云った。
「あの東京へ参りますのですが、上りの一番は何時に出ますでしょうか」
 純一は強情に女の方を見ずに答えた。「そうですね。僕も知らないのですが、革包の中に旅行案内があるから、起きて見て上げましょうか」
 女は短い笑声《わらいごえ》を漏した。「いいえ。それでは宜《よろ》しゅうございます。どうせ起して貰うように頼んで置きましたから」
 こう云ったきり、女は黙ってしまった。純一はやはり強情に見ずにいる。女の寐附かれないらしい様子で、度々寝返りをする音が聞える。どんな女か見たいとも思ったが、今更見るのは弥《いよいよ》間が悪いので見ずにいる。そのうちに純一は又寐入った。
 朝になって純一が目を醒ました時には、女はもういなかった。こんな家《うち》で手水《ちょうず》を使う気にもなられないので、急いで勘定をして、この家を飛び出した。角刈の男が革包を持って附いて来そうにするのをもことわった。この家との縁故を、少しも早く絶ちたいように思ったのである。
 湯本の朝日橋まで三里の鉄道馬車に身を托して、靄《もや》をちぎって持て来るような朝風に、洗わずに出た顔を吹かせつつ、松林を穿《うが》ち、小田原
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