フである。
 ゆうべ東京を立って、今箱根に着いた。その足で浴室に行って、綺麗な湯を快く浴びては来たが、この旅行を敢《あえ》てした自分に対して、純一は頗《すこぶ》る不満足な感じを懐《いだ》いている。それが知らず識《し》らず顔色にあらわれているのである。
     *     *     *
 大村は近県旅行に立ってしまう。外に友達は無い。大都会の年の暮に、純一が寂しさに襲われたのも、無理は無いと云えば、それまでの事である。しかし純一はこれまで二日や三日人に物を言わずにいたって、本さえ読んでいれば、寂しいなんと云うことを思ったことはなかったのである。
 寂しさ。純一を駆って箱根に来させたのは、果して寂しさであろうか。Solitude《ソリチュウド》であろうか。そうではない。気の毒ながらそうではない。ニイチェの詞遣《ことばづかい》で言えば、純一はeinsam《アインザアム》なることを恐れたのではなくて、zweisam《ツヴァイザアム》ならんことを願ったのである。
 それも恋愛ゆえだと云うことが出来るなら、弁護にもなるだろう。純一は坂井夫人を愛しているのではない。純一を左右したものはなんだと、
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