ヌ窮して見れば、つまり動物的の策励だと云わなくてはなるまい。これはどうしたって庇護《ひご》をも文飾をも加える余地が無さそうだ。
東京を立った三十日の朝、純一はなんとなく気が鬱してならないのを、曇った天気の所為《せい》に帰しておった。本を読んで見ても、どうも興味を感じない。午後から空が晴れて、障子に日が差して来たので、純一は気分が直るかと思ったが、予期とは反対に、心の底に潜んでいた不安の塊りが意識に上ぼって、それが急劇に増長して来て、反理性的の意志の叫声《さけびごえ》になって聞え始めた。その「箱根へ、箱根へ」と云う叫声に、純一は策《むち》うたれて起《た》ったに相違ない。
純一は夕方になって、急に支度をし始めた。そこらにある物を掻《か》き集めて、国から持って出た革包に入れようとしたが、余り大きくて不便なように思われたので、風炉敷に包んだ。それから東京に出る時買って来た、駱駝《らくだ》の膝掛《ひざかけ》を出した。そして植長の婆あさんに、年礼に廻るのがうるさいから、箱根で新年をするのだと云って、車を雇わせた。実は東京にいたって、年礼に行《い》かなくてはならない家は一軒も無いのである。
余
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