、純一は暫く見送って、夕《ゆうべ》の薄衣《うすぎぬ》に次第に包まれて行《ゆ》く街を、追分の方へ出た。点燈会社の人足が、踏台を片手に提げて駈足で摩《す》れ違った。

     二十二

 箱根湯本の柏屋という温泉宿の小座舗《こざしき》に、純一が独り顔を蹙《しか》めて据わっている。
 きょうは十二月三十一日なので、取引やら新年の設けやらの為めに、家《うち》のものは立ち騒いでいるが、客が少いから、純一のいる部屋へは、余り物音も聞えない。只早川の水の音がごうごうと鳴っているばかりである。伊藤公の書いた七絶《しちぜつ》の半折《はんせつ》を掛けた床の間の前に、革包《かばん》が開けてあって、その傍《そば》に仮綴のinoctavo《アノクタヴォ》版の洋書が二三冊、それから大版の横文《おうぶん》雑誌が一冊出して開いてある。縦にペエジを二つに割って印刷して、挿画《さしえ》がしてある。これはL'Illustration Theatrale[#「Theatrale」の一つ目の「e」は「´」付き、一つ目の「a」は「^」付き]《リルリュストラション テアトラアル》の来たのを、東京を立つ時、そのまま革包に入れて出た
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