い調子の色に飽いている。薄曇りのしている日の午後である。大村と何か話して笑っていると、外から「海嘯《つなみ》が来ます」と叫んだ女がある。自分が先きに起《た》って往来に出て見た。
 広い畑《はた》と畑との間を、真直に長く通っている街道である。左右には溝《みぞ》があって、その縁《ふち》には榛《はん》の木のひょろひょろしたのが列をなしている。女の「あれ、あそこに」という方角を見たが、灰色の空の下に別に灰色の一線が劃《かく》せられているようなだけで、それが水だとはっきりは見分けられない。その癖純一の胸には劇《はげ》しい恐怖が湧《わ》く。そこへ出て来た大村を顧みて、「山の近いのはどっちだろう」と問う。大村は黙っている。どっちを見ても、山らしい山は見えない。只水の来るという方角と反対の方角に、余り高くもない丘陵が見える。純一はそれを目掛けて駈け出した。広い広い畑を横に、足に任せて駈けるのである。
 折々振り返って見るに、大村はやはり元の街道に動かずに立っている。女はいない。夢では人物の経済が自由に行われる。純一は女がいなくなったとも思わないから、なぜいないかと怪しみもしない。

 忽ちscene[
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