見附けて据わって、鼠掛《ねずみが》かった乳色の夕べの空気を透かして、ぽつぽつ火の附き始める向河岸を眺めている。
 一番盛んに見える、この座敷の一群は、真中に据えた棋盤《ごばん》の周囲に形づくられている。当局者というと、当世では少々恐ろしいものに聞えるが、ここで局に当っている老人と若者とは、どちらも極《きわめ》てのん気な容貌をしている。純一は象棋《しょうぎ》も差さず棋《ご》も打たないので、棋を打っている人を見ると、単に時間を打ち殺す人としか思わない。そう云えばと云って、何も時間が或る事件に利用せられなくてはならないと云う程の窮屈なutilitaire《ユチリテエル》になっているのでもないが、象棋やdomino《ドミノ》のように、短時間に勝負の付くものと違って、この棋というものが社交的遊戯になっている間は、危険なる思想が蔓延《まんえん》するなどという虞《おそれ》はあるまいと、若い癖に生利《なまぎき》な皮肉を考えている。それも打っている人はまだ好《い》い。それを幾重《いくえ》にも取り巻いて見物して居る連中に至っては、実に気が知れない。
 この群《むれ》の隣に小さい群が出来ていて、その中心にな
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