戸は純一に小声で云った。「あの先生はあれでなかなか剽軽《ひょうきん》な先生だよ。漢学はしていても、通人なのだからね」
 純一は先生が幅広な、夷三郎《えびすさぶろう》めいた顔をして、女にふざける有様を想像して笑いたくなるのを我慢して、澄ました顔をしていた。
 両国の橋手前《はしでまえ》で電車を下りて、左へ曲って、柳橋を渡って、高山先生の跡に附いて亀清《かめせい》に這入《はい》った。
 先生がのろのろ上がって行《い》くと、女中が手を衝いて、「曽根さんでいらっしゃいますか」と云った。
「うん」と云って、女中に引かれて梯子《はしご》を登る先生の跡を、瀬戸が附いて行《い》くので、純一も跡から行った。曽根というのは、書肆《しょし》博聞社の記者兼番頭さんをしている男で、忘年会の幹事だと、瀬戸が教えてくれた。この男の名も、純一は雑誌で見て知っていた。
 登って取っ附きの座敷が待合になっていて、もう大勢の人が集まっていた。
 外はまだ明るいのに、座敷には電燈が附いている。一方の障子に嵌《は》めた硝子越しに、隅田川が見える。斜に見える両国橋の上を電車が通っている。純一は這入ると直ぐ、座布団の明いているのを
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